梅沢歯科医院     〒359-1127 埼玉県所沢市星の宮1−2−25 TEL:04-2921-5215
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私が考える歯科医療とは

平成16年5月13日

 私たち歯科医の治療に対して患者さんがいい歯科医と感じるのは、治療中の言葉使いから始まって、しっかり説明をしてくれるとか、時間をかけてしっかり治療をしてくれる、または、麻酔などを含めて痛くない治療をしてくれる、といったものではないでしょうか?しかしながら、患者さんからの本当の評価が下されるのは、決して治療中や治療完了時ではなく、その後何年か経過してからだと思います。
 まあ多少の自分の中の甘えた部分を出しますと、一度信頼関係を築けばそう簡単には解けないだろうというものがありますが、今の時代歯医者が乱立していてどこに行っても大事にしてくれるでしょうから、今までいい関係だったのが一度へそを曲げると一瞬でその関係が崩れ落ちることも少なくないという思いはどこかにあります。これは歯医者に限ったことではないでしょうけど。
と言う訳で、何年もしっかりしていないと患者さんの評価は、下がってしまいます。ではどうしたら良いのかということが、今日お話しする私が考える歯科医療です。

 私が患者さんによく、『歯科治療と家を建てるのはよく似てるんですよ。』と言う事があります。
家を建てるときの手順というのは、ここには建築関係の仕事をなさってる方が多いのであってるかどうか分かりませんが、恐らくこんな感じだと思います。
まず、ここの地盤は大丈夫かどうか?という地質調査をして、例えばそこが大昔水田だとか湿地帯だったような場合は、あきらめるか、大幅な補強工事をするでしょう?そして、建物の大きさや重さに耐えられるような頑丈な地盤の上で地ならしをしてから、基礎工事をするんだと思います。そして、昔だったら大黒柱、今は鉄筋などの骨組みを立てて、最後に外観の工事をするんだと思います。
中身の工事をおろそかにすると、いくらきれいな外観をしてても数年後には、欠陥住宅だなんて騒がれたりして、一からやり直したり、補修工事を絶えずするようなことになり最悪の状態になるのではないかと思います。また、これだったらまだ良いと思いますが、中身がしっかりしていても、みすぼらしい外観をしてたり、雨が雨樋に落ちないなどの不適切な外装をしていても当然クレームが来るでしょう。
やっぱり、良い建物というのは、あらゆる災害や天候にも動じないしっかりした中身と綺麗な外観をしていて、誰もが住みたいと思うような建物のことだと思います。

 ながながと、建物の話をしましたが人の口の中もまったく同じだと思います。
建物で言う中身と同じ解釈をする部分とは、見えてる歯の部分以外のことで、歯の神経や象牙質などを含めた歯の内部と、歯茎や歯を支えている骨などの歯周組織のことを中身と考えればいいと思います。
まず私たちが患者さんの口の中を見るときに何を思うか?というと、急性症状がある場合は別として、歯茎の状態と歯の内部や歯を支えてる骨の状態をレントゲン撮影をして調べるということです。これは、地質調査みたいなものですかね?
歯茎の状態が悪ければ骨への影響が出ますし、骨の状態が悪ければ歯そのものを支える力がなくなってしまうからです。
歯茎の状態とは、赤く腫れていないだろうか?清掃状態はどうだろうか?歯石のつき具合はどうだろうか?それに、歯茎は退縮していないかどうか?などをレントゲン写真と見比べながらしていきます。
そして、状態が悪ければ、まず歯石除去などの口腔清掃をします。
多くの場合、歯石は歯茎の中深くにもぐりこんでいますから麻酔をしなければ痛いので麻酔をして歯石除去をしていきます。
これは一度に全部行うのではなくて数回に分けて行います。なぜかというと、口の中全部を麻酔するわけにも行きませんし、なんと言っても一本の歯を真剣にやるだけで手がつりそうになるくらい力いっぱい行うからです。せいぜい一回に4本ぐらいが限界だからです。
また、歯石除去などの口腔清掃を行う前にホープレスな歯は抜歯をするのですが、多くの患者さんは歯がなくなることがショックですから、一応希望を持たせるために歯を残す努力をしたふりをすることもあります。
このようにして、口の中をきれいにしていくのですが、いくら病院できれいにしたからといっても毎日私たちが見るわけではないので再来院したらまた汚れていることが多いのです。そのようなことを減らすために歯科衛生士による歯磨き指導が行われます。
 これら歯石除去などの口腔清掃を行っても歯茎の状態が改善されない場合は、歯茎を切ったりする外科治療になります。私たちの立場からすると積極的に行った方がいいことなのですが、患者さんにとってはとても怖いことですから、いざとなると逃げてしまう人もいますので、私は、あまり積極的には行っていません。そのような場合は、とにかく手入れを行って現状維持に努めます。
これらの処置をして歯茎を健康な状態にしていきます。ちなみに健康な状態とは、歯石などの汚れがなく歯茎の腫れがなくピンク色で、歯をがっちりサポートしていて歯と歯茎の隙間が少ないきれいな状態です。

 骨の状態とは、骨が根のどのくらいの位置にあるかを主に見るのですが、言い換えれば、骨の中にどれくらい根っこが埋まっているかです。 
根の長さの2/3くらいでしたら良くはないけどある程度のかみ合わせの負担には耐えられるでしょう。歯茎の手入れをサボらなければ大丈夫な状態です。
1/2になったら危険信号です。手入れはしっかりしないとだめだし、食べ物も大きさや硬さを考えて強くかむことはなるべくやめるようにし、いたわって使わなければならなくなります。さらに1/3になると抜歯もやもおえずという状態で、いつ抜いてもおかしくないのでだましだまし使っている状態です。基本的には抜歯の適応になります。1/4以下になると自然に抜けてもいい位なので、すぐ抜歯をするか嫌がってたらとりあえずは触りません。
いくら歯を残そうとしても、1/2以下になると大変難しくなってしまいますので、それ以前の手入れが歯の寿命を延ばしますから皆さんも早めのケアがとても大切ですので心がけてください。
また、30代のいかにも健康そうな人でも骨レベルが1/2ぐらいになっている人がいます。こういう人は、検査に引っかからないけど何らかの形で全身疾患を持っていたり、特別に免疫機能が低下してる可能性があります。外科治療をしても改善されない場合がほとんどですから、定期的なケアをしてあとは悪くなるのを待つしかないというのが現状です。
と、ここまでが歯を支える地盤の整地や基礎工事になります。

 では、骨組みにあたる歯の内側はどうでしょうか?
どんなに整地して基礎工事をしっかりしていても骨組みが弱かったらだめです。つまり、歯そのものが弱かったらだめなのです。
当然、神経があり虫歯もなく生きている歯が一番良いのですが、虫歯をほったらかしにして神経の治療をしなければならない歯や根の先に膿を持っている歯は、弱いので骨組みにできるように治療しなければなりません。それが、神経の治療ということになります。
神経治療というのは、細菌の感染によって犯された神経の管を今後細菌が進入できなくするために薬を密封することです。密封されないでいると中で細菌が増えていき、行き場を探って根の先に細菌が集まっていき膿を作ってしまいます。しばらくは無症状で経過しますが、症状が出た場合は抜歯をしなければならないときも多々出てきます。そのようなことが起きないように治療することがしっかりした治療ということです。
感染を起こした神経の管も虫歯と同じように悪い部分を取り除かなければなりませんが、機械が根の中に入りませんので、針のような掘削機を使って手で削っていかなければなりません。
悪い部分を取り除くには幅が0.08〜0.7ミリまで、指がつる思いをしながら削っていきます。
これも、一日に数ミリしか広げられませんから回数がどうしてもかかってしまいます。そして、最後に薬を密封させます。
歯そのものを永くいい状態で保つのはとても大切なことですが、いくら中の治療がしっかりしていても神経がない歯は弱いですから、金属の支柱を入れて補強をするのです。これがまさしく骨組みを立てることなのです。
ここまでがいわゆる中身の治療になります。

 もう一度整理すると、地質調査をして整地し基礎工事をすることが歯茎の手入れなどの歯周病の治療や抜歯などの口腔外科治療に当たり、骨組みをしっかりすることは、歯の内側の治療で歯科用語では歯内療法といいますが、要するに神経の治療に当たります。
中身の治療が完了すると私どもは一安心です。残っているのは外観や外装工事です。
外観や外装工事は、歯科では補綴治療と呼ばれ冠をかぶせたり詰め物をすることです。ここでの注意事項は、虫歯の部分をしっかり削り取り除くことや、詰め物などが取れにくい形に削ることと共に、いかに技工士さんが作りやすい形にするかということです。
せっかく詰め物やかぶせ物を技工士がしっかり作っても、不適合であったりしたらもとも子もありません。
やはり形がきれいで寸分の狂いもなくしっかり適合している良いかぶせ物を作るには、細心の注意を払って丁寧に削ることなのです。もちろんそれには正確に型を取ることも必要です。

 以上のことがすべてかみ合って初めて、硬いものがかめてかむ力にも負けずいつも湿った中にいても大丈夫な中身がしっかりしいて、笑ったときにも綺麗な外観をもった長持ちをする口元が出来ます。
そして、本当の意味で患者さんに喜ばれるそして評価される歯科医になれると思います。
しかし、大切なのは私の努力だけではなしえないということで、歯科医と歯科衛生士、技工士そして患者さんの4つが互いに努力をした結果できあがるものです。歯科という小さい社会でもみんなが力をあわせないといけません。どうかいろいろな場所でみんなが力をあわせられるようにしていきたいと思いますのでこれからも宜しくお願いいたします。


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